雪の轍

kisuyksu映像がとにかく美しい。
しかし、「皆、人の話を聞いて!」と言いたくなった作品。そして身につまされる。

■あらすじ
カッパドキアで父から継いだ洞窟ホテルや借家のオーナーとして裕福な生活を送っている元舞台俳優のアイドゥン。
ホテルの管理などは部下に任せ、地方紙へのコラム連載や本の執筆に取り組む日々。悠々自適な生活のようだが、家庭内はギクシャクした空気に包まれていた。
アイドゥンの年の離れた若い妻、ニハルは高圧的な態度をとる夫に嫌気がさし、自分の居場所を求めるように地元の小学校を支援する慈善事業熱心に取り組む。
同居するアイドゥンの妹も味方というわけではない。
それぞれが考え方の違いや溝に気付きながら距離をとり、閉塞感はあるものの、淡々と日々を過ごしていた。

ある日、借家に住む一家の小学校に通う息子がアイドゥンに石を投げた事件をきっかけに、
お互いに感じていた不満をぶつけ合い始める。

ついにアイドゥンは閉塞感溢れるカッパドキアを離れ、イスタンブールに旅立つ決意をするが…

正直途中でしんどくなる映画です。でも見応えはある。
でもそれはつまらないからってわけではありません。
観客としてみていると、「あぁぁ、皆んな自分のことばっかり。ちゃんと人の話聞いて!」
とイライラすることも多いんですが、一番の理由はこういうギクシャクした雰囲気って
「これ案外陥りがちなことだよね」と思わされるからです。
皆んな自分が被害者だと思い込んでいるし、
訳者さんの言葉選びがうまいのもあると思いますが、遠回しに人をけなしたりするときの台詞の言い回しが絶妙。

アイドゥン達はあくまで理知的であろうとしながら、感情を押し殺し会話を進めていこうとします。
そんなわけで概ね感情的に怒鳴ったりすることはないのですが、相手を慮っているようで遠回しにけなしていたり、
じわじわと相手を攻撃している様子が閉塞的で重い雰囲気を演出しています。
主要登場人物であるアイドゥン一家はインテリな人たちです。
そのせいか哲学的な言葉を交えたり、信仰の話が入ったりと個人的にはそんなに心に響かない会話のやりとりもあるのですが、
会話全体を流れる雰囲気は実はよくある息苦しい感じは、きっと多くの人が感じたことがあるものなのではないでしょうか。

「そういう奴いる!」「そういう奴だったことある…」
どっかで見たこと、感じたことがある息が詰まる状況が繰り広げられる。
「こいつらイライラするわ!なんでこんなことするかな」とか思う一方で身につまされるのです。

しんどいとか言いながら、最後までみることができるのは冬のカッパドキアの風景がとてもきれいだから。
心にしみる美しさ!人間同士のやりとりの重苦しさが換気されるように、冬の風景がいい感じで入るのです。
内容が内容なので、疲れているときとか、スカッとしたい時にはお勧めしませんが、映像だけでもみる価値ありです。

原題:Kış Uykusu
監督:Nuri Bilge Ceylan(ヌリ・ビルゲ・ジェイラン)
製作年:2014 年
製作国:トルコ・フランス・ドイツ合作
公式HP:http://www.bitters.co.jp/wadachi/
第67回カンヌ国際映画祭 パルム・ドール賞 受賞

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