主人公が訪れた東京の場末にある「店」。そこで風変わりな店主とその従兄弟がある物語を語り始める…。
話の大方は従兄弟が語る物語です。ラストにその物語と現実がうまい具合に落ち着くのが良い感じ。
気になる従兄弟の物語は、16世紀オスマン帝国の片隅で詩に魅せられた少年が当代一の語り部を目指す一代記。
この少年、イニチェリ(皇帝の近衛兵)に入隊します。帝都イスタンブールで兵隊業をこなす傍、詩人、語り部として腕を磨いていきます。時代はセリム1世、スレイマン1世の時期なので、兵士目線でのチャルディラーンの戦いなど世界史に出てくる出来事が書かれていたり、イニチェリ内での上司や後輩とのやりとりも面白いです。
文章も読みやすいのでさらっと読めます。
また、書籍名となった作品と一緒に収録されている「ハキルファキル」も個人的にはすごく好きでした。
「無名亭の夜」よりさらに読みやすい作品です。
こちらも16世紀オスマン帝国のイスタンブールが舞台。詩人を志す夢見がちな自称貧乏詩人の弟と、現実主義者で弟にイラつきながらも面倒見の良い荷運び人の兄がひょんなことから超有名詩人バーキーと出会ったことで起こるひと騒動。兄弟が庶民の底力をみせる少々切なくもスカッとする作品です。
このバーキーという詩人は実在していた人物でこの物語も、最後に現実世界と物語がすっと繋がる心地よさがあります。
お時間があるときにでも是非ご一読ください。
kindle版もあるようです。